
「うわ、このレクサスIS、めちゃくちゃカッコいいじゃん…!」
目の前に現れた一台のクルマ。 そのボディカラーは、まるで深海を思わせるような妖艶な「ヒートブルーコントラストレイヤリング」。 Fスポーツ専用のスピンドルグリルは漆黒に輝き、見る者を威圧するようなオーラを放っている。
年式は2022年、走行距離はわずか9500km未満。 内外装のコンディションは、新車と言われても疑わないレベルだ。
「これ、いくらなんだ…?」
恐る恐るプライスボードを見ると、信じられない価格が書かれていた。 市場価格より明らかに安い。 安すぎる。 しかし、その価格の横には、中古車を検討する誰もが一度は躊躇するであろう、あの言葉が添えられていた。
「修復歴アリ」
多くの人がこの言葉を見た瞬間、「ああ、ダメだこりゃ」と踵を返すだろう。 でも、ちょっと待ってほしい。 その判断、もしかしたら最高の掘り出し物を逃しているかもしれないぜ?
今回は、修復歴があるクルマは本当に避けるべきなのか、そして「当たりの事故車」をどう見抜けばいいのか、俺が実際にこの極上のIS300を徹底的にチェックしながら、その全てを語っていこうと思う。 この記事を読み終わる頃には、君の中古車選びの常識が180度変わっているはずだ。
なぜ俺がこの「ヒートブルー」に惹かれるのか
まず、このクルマのヤバさを語らせてくれ。 なんと言ってもこの色、「ヒートブルーコントラストレイヤリング」だ。
これはただの青じゃない。 レクサスが本気で塗装にこだわった、特別なカラーなんだ。 初めてこの色が世に出たのは、あの「RCF」。 レクサスのスポーツイメージを決定づけた、伝説的なモデルのイメージカラーだった。
トヨタでいうエモーショナルレッド、マツダでいうソウルレッドみたいな、塗装の膜を何層にも重ねて、光の当たり方で表情がガラリと変わる特殊な色。 だから、基本的にFスポーツやFモデルといった、スポーティなグレードにしか設定されない、選ばれし者のカラーなんだよ。
そんな特別な色が、後期型になってさらに洗練されたISのボディに纏われている。 もう、この時点で反則的なカッコよさだ。
細部まで抜かりない「大人のカスタム」。
このISは、ただ色がカッコいいだけじゃない。 オーナーのこだわりが細部にまで宿っている。
まず目に付くのは、TRDのエアロパーツ。 フロントスポイラー、サイドスカート、そしてリアディフューザーと、フルで装着されている。 やっぱりエアロはTRDだよな。 デザインのかっこよさはもちろん、空力まで考え抜かれた本物のパーツが持つオーラは、そこらの安物とはワケが違う。
「高かろう良かろう」とは、まさにこのことだ。
足元を見れば、純正の19インチアルミホイールが、グリルに合わせてグロスブラックに塗装されている。 もともとのシルバーも悪くないが、このヒートブルーのボディには、引き締まったブラックの足元が断然似合う。 スポークがリムの端まで伸びたデザインだから、19インチ以上の迫力を感じるぜ。
そして、キャリパーは鮮やかなオレンジ。 これもメーカーオプションで、青いボディにオレンジの差し色が映えて、めちゃくちゃオシャレだ。 3眼のフルLEDヘッドライトも7万7000円のオプションだが、レクサスに乗るならこれは絶対につけたい装備だよな。
夜の顔つきが全然違う。
さらに、ドアミラーはゴツい「エアロダイナミックスミラー」に交換されている。 「やりすぎじゃない?」って思うやつもいるかもしれないが、ここまでスポーティに振ったクルマなら、これぐらいやってちょうどいい。 青いボディにこのミラー、もう最高のマッチングだ。
リアに回れば、後期型から採用された一文字のテールランプが新しいクルマであることを主張してくる。 そして、リアディフューザーからのぞくのは、純正より一回り太い社外品のマフラーカッター。 これがまたいい仕事をしてるんだ。
TRDのマフラーも悪くないが、正直ちょっとジェントルすぎる。 でも、こいつは太さもあって、しかも中がパンチング加工されたブラッククローム仕様。 純正のマフラーカッターって、よく見ると溶接跡があったりするんだけど、これはそういう野暮な部分が全く見えない。
細かいところだけど、クルマ好きにはこの差がわかるはずだ。
内装もヤバい。 オプションのホワイトレザーシートが、スポーティな外観に上品さをプラスしている。 もちろんシートベンチレーションも付いていて、夏場のドライブも快適そのもの。
ここまで聞いて、どうだ?完璧な一台に思えるだろ?でも、こいつは「修復歴アリ」なんだ。
ついに本題。 修復歴の正体と「見極め術」。
さて、ここからが本題だ。 このISがどんな事故を経験したのか、包み隠さず話そう。
記録によると、修復箇所は左側に集中している。 左のフロントピラー、センターピラー、インサイドパネル(フェンダーの内側にある骨格の一部)の修正。 そして、ボンネット、左右のフロントフェンダー、左のフロントドア、リアドア、クォーターパネルが交換または板金されている。
ラジエーターを支えるコアサポートも修正済みだ。
文字だけ見ると「うわ、結構いってるな…」と思うかもしれない。 実際、オークションの評価点では「R点」、つまり修復歴車扱いだ。
でも、大事なのは「どこを直したか」だけじゃない。 「どう直したか」が全てなんだ。 下手な板金屋が直したクルマは、素人が見てもどこか歪んでいたり、塗装の色が合っていなかったりする。 だが、本当に腕のいい職人が手がけた修復は、プロの目で見ても見破るのが難しいレベルに仕上がっている。
じゃあ、どうやってそれを見抜くのか。 俺がいつもやっている、プロのチェック方法を特別に教えてやろう。
チェックポイント①:パネルの隙間(チリ)は均一か
まず見るべきは、ボンネットやドア、バンパーといったパネル同士の隙間、いわゆる「チリ」だ。 事故を修復したクルマは、このチリが左右で違ったり、一部分だけ広くなったり狭くなったりすることが多い。
このISで見てみよう。 まず、修復されていない右側のボンネットとフェンダーの隙間を確認する。 指でなぞってみると、根本から先端までほぼ一定の幅を保っている。 これが基準だ。
次に、問題の左側。 こっちも同じように見ていくと…どうだ?右側とほとんど変わらない、見事なまでに均一な隙間で仕上がっている。 ボンネットとフロントバンパーの隙間もそうだ。 左右の端が少し落ち込むような形状になっているが、これも左右対称。
つまり、完璧に調整されている証拠だ。
下手な修理だと、片方が狭くて反対側が広い、なんてことがザラにある。 この時点で、かなり丁寧に直されていることがわかる。
チェックポイント②:プレスラインは通っているか
次に重要なのが、ボディサイドを走る「プレスライン」。 ドアやフェンダーを交換すると、このラインが微妙にズレることがあるんだ。
このISも、左のフェンダーとドアは交換されている。 まず、ラインの基準となる右側を見てみよう。 フェンダーからドア、リアドアへと続くラインが、一本の線として綺麗につながっている。
じゃあ左側はどうか。 ドアとフェンダーの境目に注目する。 触ってみると、高さの段差がほとんどない。 わずかに、ほんのわずかにドア側が高い気もするが、これは言われなければ絶対に気づかないレベル。 これもまた、左右を見比べないとわからない世界だ。
こういう細かい部分をきっちり合わせられるのが、腕のいい職人なんだよ。
チェックポイント③:ドアの開閉フィールと音
これも重要なポイントだ。 ピラーなどを修復している場合、ドアの閉まり具合に違和感が出ることがある。
まず、正常な右側のドアを閉めてみる。 軽い力で「スッ…」と吸い込まれるように閉まり、「カチャ」という上質な音がする。 レクサスならではの剛性感だ。
次に、修復している左側のドア。 これも開けて、同じように軽い力で閉めてみる。 …右に比べると、ほんの少しだけ重い。 閉まる時の音も、心なしか違う気がする。 指一本で押すような、本当に弱い力だと閉まりきらないことがある。
「ほら、やっぱりダメじゃないか!」と思うかもしれない。でもな、これも許容範囲の問題なんだ。普通に乗り降りする時の力で閉めれば、何の問題もなくスムーズに閉まる。これがもっとひどい状態だと、半ドアになりやすかったり、「ガチャン!」と安っぽい音がしたりする。
レクサスはもともとの作りが精密だから、一度バラして組むと、どうしても新品同様とはいかない部分が出てくる。 でも、このISに関しては、言われなければ気づかない、もしくは「こんなもんかな」で済ませてしまうレベルに収まっている。
これは相当レベルの高い修復だと言える。
チェックポイント④:塗装のクオリティ
最後に塗装だ。 ボンネットやフェンダーは再塗装されているわけだが、そのクオリティはどうだろうか。
ヒートブルーのような特殊なメタリック、パール系の塗装は、色を合わせるのが非常に難しい。 さらに、塗装ブースの環境が悪いと、塗料の中に小さなホコリが混じってしまうことがある。
このISの塗装面を光に透かして、じっくり見てみる。 確かによく見ると、フロントバンパーの角に、本当に小さなホコリが乗っている箇所があった。 でも、これは虫眼鏡で探すようなレベルだ。 塗装の「肌」と呼ばれる表面の質感も、オリジナルの部分とほとんど見分けがつかない。
ボンネットのような広い面でも、色ムラは全く感じられない。
これもまた、ハイクオリティな仕事の証だ。
どうだっただろうか。
このレクサスIS300。 確かに「修復歴アリ」という経歴を持つ。 左側のドアは、新車と比べればほんの少しだけ閉まりが重い。 でも、それだけだ。 外装のチリやプレスラインは完璧に近く、塗装も極上。 TRDのフルエアロやブラックアウトされたホイール、こだわりのマフラーカッターといったカスタム費用を考えれば、この価格は破格としか言いようがない。
ぶっちゃけ、俺が自分で乗るとしても、何の躊躇もなくこのクルマを選ぶ。 それくらい、状態と価格のバランスがぶっ壊れている「当たり」の個体だ。
もちろん、全ての修復歴車がこうだとは言わない。 中には本当にひどい状態のクルマも存在する。 だからこそ、今日俺が話したような「見極める目」が必要なんだ。
「修復歴」という言葉だけでフィルターをかけてしまうのは、本当にもったいない。それは、未知の美味しいレストランの前を「知らない店だから」という理由で通り過ぎるのと同じことだ。
大事なのは、そのクルマがどんな過去を背負い、そして今どんな状態にあるのかを、自分の目でしっかりと見極めること。 それができれば、修復歴は君にとってリスクではなく、最高の愛車を誰よりも安く手に入れるための、またとないチャンスになる。
中古車探しは、まさに宝探しだ。 固定観念を捨てて、知識という武器を手にすれば、君だけの特別な一台がきっと見つかるはずだ。 さあ、最高のカーライフを求めて、冒険に出ようぜ。